そこがミソ。-ドラマや特撮感想などを気ままに

ブログ、感想は見た日の分にアップしたいので過去ログがいきなり埋まってることもあるってよ。

「ゆれる」

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すごーく面白かったです。
えー、格好良いいい方をすると普段映像作品を見るときに、あまり誰の作品だとか、男性か女性かっていうのは、変な先入観とか固定観念が出来ちゃうんであまり意識しないようにしてるんですね。
この映画は女性監督だっていうのは知ってましたが(原案・監督・脚本:西川美和)まあそれくらいで、特に前情報も入れずに見たんですが、なんというか、ゲイの監督が撮ってるような印象でした。でもある意味スタイリッシュなゲイの人よりもっと容赦がなくてキレイ事抜きの映画って感じかなあ。女性監督だという雰囲気がないのは、生々しいとこはあるんだけどじっとりとはしてなくて、妙にドライだからかも。ヒロインのはずの女性はヒロインではなく、一人の女をめぐって対立する兄弟という簡単な話じゃないところが、その情念みたいなものがあまり感じない理由で(この「情念を感じる」っていうのは女性作家の場合、対外的にある意味売りだと思うんで)むしろそれはきっかけにすぎなくて、本当に描きたいのは猛(オダギリジョー)と稔(香川照之)の兄弟だっていうのが、あまりにもハッキリしてるからかなあ。
しかも男性的ってわけでもないのは、それがはっきりとした確執とかじゃなく、何となくお互いの認識のズレみたいなものを丁寧に拾ってるのが女性ならではの視点(でもかなり厳しい)なんだろかと。
個人的には智恵子みたいなタイプは嫌いなんだよ。自分が選んだことに対して納得できずにくすぶってる人間。やっぱりうっとおしいと思うなあ。多分猛と一緒に東京に出てきても上手くいかず、結局別れて変なヒモに引っ掛かって水商売とかに身をやつしそうな気がするなあ。

あ、映画自体は画面がちょっと見たことない感じで、綺麗で微妙に揺れとか何とも言えない佇まいがあるんだけど、構図とか撮り方が大胆で力強くて、やっぱり少し男性的な雰囲気はあるかもね。


以下ネタバレがあるんで隠します。


画面の見せ方は今いった通りの雰囲気なんだけど、演出的にはポイントになるところがちゃんと判りやすく演出されてて、そういう意味では親切な映画かも。意味のあるシーンはそれが判るように見せてくれてるってことね。だから見ててかなり判りやすく兄弟それぞれの思いと、それが食い違っていく様は描写されてると思います。
実は話の展開は結構読めてて、智恵子が死ぬまでの出来事とそれまでに判ってる人間関係で、その後裁判で暴れるだろう展開が予測できて、はっきり言えば見つかった死体を解剖するってことになったとき…なんだけど、兄弟の関係が破綻していくことは予測が付くんですね。それゆえ、いつそれが出てくるかとドキドキしながら見てたっていうのもあるんだけど、そういう緊張感を感じさせる展開が上手いなあと。
とにかく演出が丁寧で判りやすいのもあって、それぞれの考え方や行動がやたらリアルで痛々しいのも「詰まらない人生を送っている」という閉塞感に繋がってて、誰に強制されてるわけでもないのに抜け出せない人間と、さっさと抜け出した人間の温度差みたいなものが感じられるのが、これまたはっきり見えるのが痛いなあと。
これは故郷に残ってる稔・智恵子とでていって成功した猛、家を継いだお父さん(伊武雅刀)と都会で弁護士をしてる叔父さん(蟹江敬三)もそうなんだけど、猛が叔父さんに懐いてるのと対照的に、稔が「嫌いなんだ、あの人」と言うとことか、稔の描写としてすごくよかったなあと思った。

猛は都会でたまたま成功し、田舎には寄りつかず父親との折り合いも悪いけど、兄は子供の頃からの昔のままだと単純に思っていて、その兄がいろいろな感情がないまぜになっているのを押し殺してるだけだというのには気がついてなかったんだけど、これは見てる観客のほうははっきり判ってて、更にいえば智恵子との関係も猛にとっては単に気まぐれでしかなく、それによって退屈な毎日を送ってた智恵子にヘタな希望を与えてしまうことにも気がつかなかったんだけど、観客にははっきり判るんですね。
だから、その後の猛と稔のやり取りの中で猛に本心を明かさない稔の言動と、罪の意識でちょっと錯乱してるのが引っかけになって、判ってるはずの本心が判らなくなっていくところで、観客は猛と同じ立場に追いやられてくのかなーと思ったんですが、これが最後の最後に効いてくる構成がやっぱり面白かった。
なんつーか、猛が見た映像が本当なら(本当だと思うけど)、猛は兄の本心を見てるはずなのに、その時は信じてたから庇おうと思ったはずなのに、裁判でのやり取りの中で兄に対する思いが歪んでいった故に事実を誤認してしまったことが罪なのかなーと。だとすればそれはやっぱり許されることじゃないわけだし、7年後、仕事先のバイトくんが猛に対して稔を迎えに行くことを強要するのもそれゆえかなと。バイトくんは稔を信じてたけど、猛は信じられなかったから事実を歪めてしまったことが罪なんだなと。
最後、それに気がついた猛には救いがあったんだけど、それが許されるかどうかというと、そこで切るかーって感じで終わってて、実は見ててそのもうちょい先まであるかなと思ってたのがあそこで切られたせいで、観客に判断を委ねてるんだけどオレはどうもあまり楽観的には見られなかったです。稔は確かに笑顔を返してはいるんだけど、あれは何となくバッドエンドのような気がしますね。
あと智恵子が落ちたあとの吊橋のシーンがなんかすごくて、見てて思わず鳥肌が立ちました。香川照之の演技とオダジョーの演技の本気っぷりというかとにかくあのシーンはすごかったなー。
あといろいろキタのは、智恵子の死体が見つかったあとだったか、猛がシャワーを浴びながら彼女とのセックスを思いだして吐きそうになるとこ。お父さんが寒い中、干した新聞紙を取り込んでるとこ(ちょっとボケてる)。稔が黙々と洗濯物をたたんでるとこかな。
なんかオダジョーは変な役を振ると作り混みすぎる気がするんで、これくらいの感じの方がいいんじゃないかと思うなあ。というと偉そうだな、これくらいの役の方が好きです。


パンフレットを読んで。
西川監督、こういう人は自分の作りたいものだけをちょっとだけ作ればいいと思ったよ。
「作者として母性のかけらもなく、徹底して厳格な父親であった」ってすごく納得。やっぱりそんな人だったんだなあ(笑)
自分が見た夢の内容を形にしようとする思いつき、というか何かあるからそんな夢を見るんだろうけど、それをこういう映画にする人の、人生に対しての厳しさと優しさがみたいなモンが、なんか若いのにすごいなあと思いましたです。
最初にもいったけど、これはあんまり難解な映画ではない、見ててちゃんと判る映画なんで、とりあえずオススメです。これのオダジョーが単純にいいってのもあるけど、役者はみんないいですね。好きな役者ばかりってのも見てて楽しいです。
でも新宿武蔵野館はちょっとスクリーン小さすぎです…