そこがミソ。-ドラマや特撮感想などを気ままに

ブログ、感想は見た日の分にアップしたいので過去ログがいきなり埋まってることもあるってよ。

神代剣のノブレスオブリージュ

今回の神代剣の最後、一緒に見てた家人は剣が生きててもよかったんじゃないか?ということで不満だったようです。あちこち感想見ててもそんな意見は随分前から見かけてたんだけど、オレは全然そう思わなかったんだよな。
もともと、好きなキャラだろうが何だろうが、ドラマのために死ぬのはむしろ退場の花道ってくらいにおいしい展開だと思ってるってのもあるんですけどね。もちろんそれが物語的に意味があれば、ですが。(盛り上がりのためだけの無駄死には絶対イヤ)
 
坊っちゃんの場合死ぬしかないよなあと思うのは、彼がワームでありながら、その戦う目的が「全てのワームを倒す」だから。それゆえ自らの信条によって死ぬしかない、それこそが彼の「ノブレス・オブリージュ」ではないかと思うからです。
例えば、フランス革命*1 悪徳領主(貴族)達に対して蜂起した民衆が、「領主は悪だ」というお題目をもって行動してる場合、実際一部の民衆にとって良い領主であったとしても、領主=悪である以上それは倒されなければならないわけです。当然こっそり逃げることも出来るけど、むしろいい領主であれば殺されるとと判っていても甘んじて民衆のその意志を受け入れなければならない、高潔な魂を持っているからこそ逃げない、ということになる。それが「ノブリス・オブリージュ=高貴なるものの義務」かなと思うんですね。
剣の場合もそれと同じで、ワームであっても今の神代剣の人格としては「いい人間」であるから、殺さないで生き延びるという「逃げ」もあるだろうけど、自分自身が「ワームを許さない」といっている以上、それが自分のことであっても、逃げることは許されないと思うんですよ。
でも自分で自分を殺すことは出来なかった(自殺不可能だった)から、同じように高貴な魂を持っている天道にそれを託した。剣との約束を果たした天道がいうセリフ、『奴はいつも言っていた。全てのワームを倒すと。…自分の力で奴はその夢を叶えたんだ』この「自分の力で」というのが、天道はあくまでも剣の願いを叶える為の代行者であり、実質的には天道が倒したんではなく剣が自殺したということと同じなんですね。
 
ただこれだと確かに判りにくい。画面的にはどう見ても天道が剣を倒したとしか見えない。
でもストーリー的にはもっと視聴者に判り易く、剣が倒される理由を付属したり、倒さざるを得ない状況を設定したりすることはいくらでも簡単に出来ると思うんだけど、あえてそうしなかった理由を考えると、それは作り手側が剣を剣としてそれに相応しく高潔なまま退場させたかったのかなーと思うんですね。
全てのワームを倒すと言っている以上、ワームである彼が生き残ることは有り得ない。それは彼が他でもない「神代剣」だから。*2
だからどっちにしても誰も彼のことを救えなかったと思うし、それだから加賀美が悩んでるといいながらも、悩む以上のアクションを起こせなかった(ドラマ的に)、彼に引導を渡すのが天の道を行く男・天道だったというのは当然の帰結だったかなと。
というか天道以外剣を倒すことは出来なかったんですよ。天道は剣のノブレス・オブリージュを唯一理解しえる人間だからこそ、それが出来た。
 
この話の中で、どんなに親しい人間でもそれが悪いワーム(人を殺したことがある)だったらためらいなく倒すことが出来るのは、天道と剣だけだったんですね。だから剣のことを「ワームでもいい」といった加賀美ではないんだよね。*3
剣がかなり長く登場していて、他のキャラとも絡んでいるにも関わらず、巧妙にワームキャラのひより(覚醒後)や麗奈、田所さんとは直接絡んでない、それで尚且つピュアなキャラを保っていたのはかなり計算されていたのかなーと今となっては思います。
剣のキャラを尊重すると剣は当然自ら死を選ばなくてはならない。剣が倒されることがドラマとして前提であっても、もしこれが当たり前に剣が倒されて当然の状況を作って倒されたとすると、逆に剣のキャラはぼやけてしまうんじゃないかなあ。
オレは今のカブトのことは「キャラクターショー」だと思ってると何度も言ってますが、ライブ感でストーリー展開は変わっても、「ドラマのためにキャラクター性は変えない」という縛りはちゃんと残してるのかな。
「神に代わって剣を振るう男」、「神の代行者」を標榜する以上、常に高潔であり続けなければならない宿命を背負っていたのが神代剣だったのかと思います。
最後まで「ノブレス・オブリージュ」を貫いて高貴に死んでいったからこそ、神代剣の死は印象に残ったわけで、それが最も彼に相応しいと思うのですが。

*1:フランス革命にたいして興味があるわけじゃないんで正しいかどうか判りませんが、ちょうど革命前夜の"大恐怖"ネタの物語を思いだしたんでそれになぞらえてみたんですが。坊っちゃん貴族だしな。

*2:これが剣以外のキャラなら生き延びる展開もあったかも知れないけど…その場合擬態時に人間を殺したことをどう考えるか、ってことにあるしなあ。田所さんが白扱いなので、ひよりも完全に白だと思いたいけど、ネイティブの素性が判らんので何とも。ひよりが黒だった場合それはまた別の物語になっちゃうし…

*3:どうもこの加賀美に違和感があるのは、以前弟ワームを「許せないもの」として間接的に倒してるはずなのに、剣に対して「信じる」と言ってしまうところなんだよな。擬態後の人格がどうであれ人を殺したワームには違いないんだし。加賀美が弟ワームを許せなかったのは、"弟を殺したから"じゃなかったのか?