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ブログ、感想は見た日の分にアップしたいので過去ログがいきなり埋まってることもあるってよ。

海の底のピアノ

海の底のピアノ

海の底のピアノ

 
432ページの新書、最初はあまりの分厚さにいつ読み終わるかなあ…と思ってたけど、残り100ページを切る頃にはまだ読み終えたくない、もっと読んでいたいと感じるくらいに面白かった。
以下ネタバレ。ページも内容もやたら長いけどネタバレしてないほうが最後が楽しめて面白いと思うよ。
 
肉体的に虐待を受けた子供の水雪と精神的に虐待を受けた子供の和憲が運命的に出会い、微妙な距離感での恋愛感情、そして相手を束縛しないがお互いを必要としているという奇妙な共同生活を続けるが、それすらある意味必然だったのかも?というラストの驚きの真相。一人の頭のおかしな女のために引き起こされた悲劇が、数十年を経てあのように収束していくところにカタルシスがあった。
そのようにまとまっていく物語をしっかりと繊細に紬ぐ筆致に脱帽。(いやベテラン作家だから当然だとは思うけど)
途中まさか…?と思う箇所もあり、水雪の復讐が果たされたあたりである程度予感はしていたものの、予想通りの結末に「何度目だ井上敏樹!」と思わんでもなかったですが(苦笑)(なんとなく井上先生のお気に入りキャラはみんなああいう最期な気がしたけど違ったっけ?)
でも空っぽの洞窟だった和憲を通り抜けられなくなった水雪の行き着く先はすべてを受け止めてくれる海の底しかなかったのかもしれないし、そこにピアノがあったのも必然という運命だったのかなと。
そしてそれはまさに帯評の白倉さんのいうとおり、洞から出た子供は風になって洞窟を通り抜け、また再び生まれた(胎であり海である)場所へと帰っていく再生の物語だったんだろう。
「小説版 仮面ライダー龍騎」の時も感じてたけど、この独特の文体と世界観は、豪放だという噂のご本人像からしたらちょっと意外と思ったりもしたけど、そういえばアギトにしても555にしてもキバにしても(龍騎は半分しかやってないけど)、井上先生が美しいと思うのはこういう物語だよな。アギトは芦原さんに関してはそうかなあ。不条理な暴力に屈しないものを美しいと思うけどそれゆえ滅び行く運命にある…みたいな。単純な滅びの美学とはまたちょっと違うというか、滅びゆくけどそれは誰かには祝福されてる、君の居場所はあったのだから大丈夫という視点の優しさというか。
だから暴力的で不条理なこの世界の中で、生きていくことの強さと美しさを描き続けているという意味では共通してるのかも。そして食べることと音楽は生きることに必要不可欠だということも。
それが100%凝縮されたこの作品は、透明感溢れる無秩序と静かだけど圧倒的な暴力に物語の終わりを予感しつつ、その先に見える希望にどんなラストがあるのか確かめずにはいられなくなるような、生きることの喜びと哀しみの愛の物語なのかもしれない。(とちょっとカッコよく締めてみたw)