そこがミソ。-ドラマや特撮感想などを気ままに

ブログ、感想は見た日の分にアップしたいので過去ログがいきなり埋まってることもあるってよ。

スポットライト 世紀のスクープ

http://spotlight-scoop.com
監督:トム・マッカーシー 脚本:ジョシュ・シンガー、トム・マッカーシー

 
カトリック教会の神父が信者の児童を性的虐待していた、それを教会ぐるみで隠蔽していたということをボストン・グローブ社の記者たちが2002年に大スキャンダルとしてスクープ報道したこと、それを暴いていく取材過程を映像化した話。
実話ベースだけどドキュメンタリーとは違い、全編地味で、派手な見せ場も特にないけど映画はちゃんとエンタメとして成り立ってて、話自体は淡々と進んでいくんだけど脚本と見せ方が上手いから最後までとても緊張感あって面白かった!
「マネーショート」のほうが多少崩壊という結果にカタルシスがあるけど(それをはっきり描かなくても結果はみんな知っている)、こっちのほうはもうちょっと地味かなあ。
役者たちはもちろん有名俳優たちばかりなんだけど、ぱっと見のスターがいないので地味に感じると思うけどw 主役はアベンジャーズのハルクのマーク・ラファロ、バードマンのマイケル・キートンレイチェル・マクアダムスや変人弁護士役にスタンリー・トゥッチとか。もちろんモデルになった記者たちはみんなまだ存命してるんだけど、役作りとして伝わるものが細かくてリアリティがすごいというか。
監督は意外というか「カールじいさんの空飛ぶ家」の脚本をやったり「ピクセル」や「ミート・ザ・ペアレンツ」(両方ともコメディやん)に俳優として出ていたとか。展開のバランスが上手いのか、とても見やすい話になってると思う。
 
ストーリーは、実話なので仕方ないけど途中で9.11という大事件が入ってくるから話としても気持ちとしてもそこで少しトーンダウンするかも。
オレは寡聞にしてこの話はあまり記憶になかったんだけど、こんな大変な話なのに何で知らなかったんだろうと思ったのは9.11と被ってたせいなのかな。ただバチカンの法王様(ベネディクト16世)の交代とかが、要はこれが原因らしいと(>パンフ)
スクープの影響はキリスト教徒じゃないのであまりピンときてなかったと思うんだけど、なんとなく神父の小児性愛性的虐待という話に意外感がなかったってのはよく考えたらそもそもがこのスクープのせいかもと気がつきました。すでに15年も前のことなんだよね。今の法王様がやたらオープンでクリーンなのもこのせいなのかな。
とにかく事件自体が明るみになることは大スキャンダルには違いないし、丹念にその事実を掘り起こし裏付けを取り、証拠を探し告発するための取材を重ねる記者たちの本気がすごい。
というか「マネーショート」もそうだけど、実話ベースの話をエンタメとして見せるやり方が上手いというか、日本だと絶対主人公目線の話で共感から感動させるわかりやすい話に持っていくってのがありがちでダサいんだよな。
 
それはさておき最初のきっかけは異動してきた新任局長の命令で否応なくだし、その後の展開もあまりに淡々と話が進んでいくから被害者にも加害者にももう少し突っ込んで欲しいとは思うんだけど、そこを「何が起こってるのかはわかるだろ?」って感じで流していくのが逆に良かった。
記者たちは相当怒りを露わにしてるけど、児童虐待の話自体は大変胸クソ悪い話なのでそこに注目が当たると嫌な気分になる&傷つく人が大勢いるのと、劇中の話自体がそうなんだけど、個々神父の罪を暴き立てる話じゃなくその上の教会そのものの隠蔽を告発しようとしてるからこそ、そこは突っ込まないという見せ方なのかも。被害者たちに話を聞いてるところは心痛い。
取材の過程では被害者それぞれの事情があり、加害者の神父の言い分、教会がそれを認知してどうしたのか、そこに加担してたことになる弁護士たちのこと、そして何よりそれが大司教区であるボストンという街でなぜ問題にならなかったのかということに踏み込んでいて、そのへんはこの問題の根の深さを表してると思う。
教会の力がとても強く街の人たちの殆どが敬虔なカトリックであり、ボストン・グローブ紙自体も購読者の53%がカトリックだという状況で記者たちが教会の犯罪を暴露する記事を書くということについて、記者たち個人の葛藤と社会的な立ち位置、ジャーナリストとしての正義感や使命感をこれでもかと言わんばかりに描いているのは見事だと。
あとそれについては記者たちの中のある人間のやってしまったことが(ネタバレ配慮)通常のこの町の人の認識という描かれ方をしていて、ジャーナリストでもそうなのか…というオチが付くのですが。街の空気って真実を見えなくしてて恐ろしいですね。

そして神父の小児性愛者(被害者に男女の別はないらしい)や性的虐待をずっと研究している劇中のある人物の見解である「宗教と信仰は別であると思っている」(うろ覚え)というのはちょっと興味深かった。
キリスト教のことだから日本人にはわからない…ということもないと思う。性的虐待なんてどんな事情があってもアウトに決まってるけど、キリスト教を信仰として持つ人たちにとってそれは肉体的にだけじゃなくもっと酷い「精神的虐待」であると。
誰にもそれを明かせないというのは信仰がなくても考えればわかることで、ただそれ以上に信仰の対象である神の代理人(もしくは神そのもの)が宗教的に否定している性的虐待を行うことを受け入れられずに精神を病んだり自殺したり、矛盾するその行為は信仰心が厚ければ厚いほど被害者の人格を崩壊させるということ、それが「魂を殺す」ということなんだと。
そういう人たちを救ったということにもなる最後のシーンは印象的だった。スクープそのものよりも、それが明らかになってどうなったのかということのほうが本当に重要だったということが最後にジワジワくる感じ。
記者たちの仕事の困難さやその忍耐は今の新聞メディアのあり方にも関係してくるし、決して単に世界的なスクープを取ったというだけの話ではない、まさにアカデミー賞作品賞脚本賞にふさわしい作品だったと思う。


ところでいつもの上映直後の耳ダンボタイムw
オレらの近くにこの監督のほかの作品も観てる人とその友達らしい30代女性二人組がいたんだけど、お友達のほうがこの映画が何が問題なのかまったくわからない、キリスト教がどういうものか身近じゃないから実感できないと興奮気味に話してまして。先に言ったようにわからないはずないと思うのよ。取材の話なので登場人物は多いけど、実際顔認識が怪しいオレでも集中してたらちゃんと誰が何でどうなってってのはわかる話だったし、記者たちのやってることも明快で、テーマもわかりやすい映画だし全然難しい話ではなかったよ。
なのにお友達の分からないアピールをずっと黙って聞いてる彼女が気の毒でならなかったですよ…(;´Д`) 何でそんなお友達と見に来ちゃったのか。
本当にこんなにもわかりやすい映画で何が問題なのかがわからない大人がいるってことにちょっとびっくり残念な気分でした。