そこがミソ。-ドラマや特撮感想などを気ままに

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帰ってきたヒトラー

http://gaga.ne.jp/hitlerisback/
監督・脚本:デヴィット・ヴェント 原作:ティムール・ヴェルメシュ

 
本当にこれ「笑うな 危険」だわ。すごい面白いけど総統、いや相当なブラックコメディで、最初こそ滑稽だけどマジでだんだん笑えなくなるよ。
フェイクというよりセミドキュメンタリーで、内容自体はかなり社会派ネタで今のドイツの実情を映し出してるっぽい(てかたぶんこれ世界の先進国はみんな似たような状況かと)
しかもアメリカ大統領選を見越した映画化ということもあり、民衆に取り入るためには(いい意味でも)道化に徹することも厭わず、民衆が望む過激なことを言えばいいという意味でトランプ候補とヒトラーをダブらせてる部分もあるらしい。(ただトランプなんかよりもヒトラーのほうが数段賢いとは思うけど)
しかもちょうど先週のイギリスのEU離脱の国民総選挙の顛末を知ってるともっと笑えないよ。国民(民衆)は歴史に学ばないし、常にわかりやすく自分らの味方をする人間に心を開くっていうね。それがどんな間違いかも知らず。
 
とにかく主役のオリヴァー・マスッチがヒトラーにそっくりすぎる。と言ってもオレもそんなに本物に詳しい訳じゃないんだけど、背が高すぎるかなってことを除けばものすごく本物の〈アドルフ・ヒトラー〉感が。パンフ見たら顔はかなり特殊メイクをしてるらしいんだけど(えー !?)、なんというか存在そのものが本物感があるという感じ。
セミドキュメンタリーの手法を使ってるってこともありヒトラーが自分のことを知るところでは実際の資料やフィクションの映画や写真なども含まれてるのがまたリアリティを感じさせるんだけど、途中で『ヒトラー最期の12日間』(動画の総統閣下シリーズで有名な)のパロディをあえて入れていたり、全体に見せ方としてとてもセンスいいです。
原作はヒトラー視点の一人称で進むらしいけど、映画はザヴァツキがヒトラー芸人(笑)が街の人にインタビューをする番組を作るという体のドキュメンタリー風に仕立てて、しかもメタ視点まで入れてラストで大事なことを語らせるという構成と演出もとても良く出来てて上手いです。
それとパンフ見てて気がついたけど、これ原作の登場人物名のファーストネームを演じる俳優さんと同じにしてるところもちょっと面白かった。
あとヒトラーのちょび髭がガスマスクをつけるためだってのはホンマですか?初めて知ったよw
以下ネタバレ気味に。
 
 
 
ストーリー自体はよくありがちな、過去の偉人がタイムスリップして常識はずれな言動のギャップで笑わせると言うものだけど、それがヒトラーだというだけでこんなにも風刺的でかつブラックな話になるとは。
はい、オレも最後の〜のパロディのとこは総統閣下シリーズを思い出して笑ったりしてました。でもだんだん笑えなくなりましたよw
これたぶん本人を知ってる世代がいるというのもキモで、認知症のお婆ちゃんが正気に返って言う「最初はみんな笑ってた」っていうセリフがたぶん真実を付いてるところが風刺的。
タイムスリップネタというだけでファンタジーなので主人公のザヴァツキが凄くレベルの高い成りきりモノマネ芸人だと思うのは無理ないけど、番組制作のためにドイツ各地を回って民衆の意見を聞いて、今のドイツの現状を憂うヒトラーの言ってることは正しいだけに恐ろしい。ただ言ってることは正しいけどやってることがすごく間違ってるってやつの典型。そもそもヒトラーとしてはやってることは時代が変わってもまったくブレてないし。むしろちょうど今のこの時代だからこそ風刺やブラックユーモアになるってのはあるかも。
むしろこれ見てて、もしかしたら本当はいつの間にかもう戦争が始まっているのかも…と思わされたし。
恐ろしいのはヒトラーのカリスマ性と人間力と賢さと適応力で、この映画はそれをすごく説得力あふれる描写で描いていくわけで、オレは支持はしないと思うけどこういう人がTVに出てきたら面白いとは思うかも。
ナチスヒトラーはそんなに詳しくない(ナチスとネオナチがどう違うのかもよくわからん)ので、この悪じゃない人間味溢れる生まれついてのカリスマ指導者なヒトラー像が正しいのかどうかもわからんけど、それ以前にドイツじゃ確かヒトラーナチスのことって子供らが一番最初に教えられるくらいタブーだったはずだし、もちろんユダヤ人ネタも笑い事じゃないのは世界の常識だよね。(あとおばあちゃんを見てヒトラー本人ですら見た目でユダヤ人だとわからないのはそういうもんなんだろか?>民族的差異がわからない)
でもヒトラーとザヴァツキがインタビューしてまわるドイツの人々はみんなヒトラーに好意的だし観光客は群がるし、むしろ今の現状がいかに酷いかをヒトラーに訴えて、しかもヒトラー自身が「どげんかせんといかん」的に答えてるわけで。この時点でヒトラーってすごくいい人だよねって思っちゃうし。
あとこれ、ヒトラーと交流する人たちの顔にぼかしが入ってたり目線が入ってるのは役者やエキストラじゃなく、本物の一般人ってことだよね。(パンフでそうと確認)そういう実在の一般人がヒトラーをタブー視してないとこも見てて微妙な気持ちになるんだけどさ。
このヒトラーが現代にタイムスリップしてキオスクの新聞で戦争が終わって自分がどういう存在として認識されてるかを知り、テレビを見てプロパガンダに使えると思ったり、インターネットの便利さに衝撃を受けつつ最大限に利用しようとしたり、この状況にあっという間に適応していく天才っぷりも後々効いてくるし。
特にテレビマスコミが面白いモノマネ芸人から今の政治について望むことを辛口でズバッと言ってくれるヒーローに祭り上げるさまもとても面白いんだけど、それが〈本物の〉ヒトラーでなければ…なんだよね。
間抜けな芸人ではないヒトラー(本物)がいつの間にか親衛隊を作り自らの地位を固め、タイムスリップしたこの体験を小説として出版し映画化するというメタネタを展開して民衆のヒーローになっていくクライマックス(ここから原作と違うらしい)は見事な流れとしか。
ガールフレンドのおばあちゃん(ユダヤ人)が激怒したことでザヴァツキがヒトラーの正体(最初から本物だと言ってるけど)に気がつくところはまるで「世にも奇妙な物語」みたいな不条理展開だし、その結末は笑えないくらい恐ろしくブラックだった。本当にこの国はこれからどこへ行くんだろう、というのはドイツのことだけじゃないと思う。
これドイツ人(というか欧州的)にはどうなんだろうね。ウケるとは思うけど、日本だったらどうなんだろう?
とにかくオススメ。