そこがミソ。-ドラマや特撮感想などを気ままに

ブログ、感想は見た日の分にアップしたいので過去ログがいきなり埋まってることもあるってよ。

この世界の片隅に

http://konosekai.jp
監督・脚本 : 片渕須直 原作:こうの史代

 

広島に住んでた絵が得意な少女・浦野すずは、戦時中の昭和19年、相手をまったく知らないまま故郷の広島市江波から20キロ離れた呉に18歳で嫁いできた。
戦争によって様々なものが欠乏する中で、家族の毎日の食卓を作るためにいろんな工夫を凝らしていたが、しかし戦争が進むにつれ日本海軍の拠点である呉は空襲の標的となり、すずの身近なものも次々と失われていく。それでもなお、前を向いて日々の暮らしを営み続けるすずだったが終戦を迎えて……
能年玲奈から改名したのんが主人公すず役でアニメ映画の声優初挑戦を果たした。(「映画.com」より)

 
見に行ったのは先週の月曜日で、とてもいい作品だった…けど、あまりにもずっとネットやTwitterのTLにこの作品を褒め称える絶賛意見ばかり流れてくるから、いかにオレでもホメないといけないような気になってきて、感想言いづれー(苦笑)
確かにすごく出来が良いし貶すところはまったくないんだけど、これくらいのレベルのアニメ作品って今までだってたくさんあるよ…ねえ?それともみんなは絶賛するのにオレがわからなかった重要なポイントでもあるのかなあ……と思わざるをえないのデス。
だって戦時中の呉の風景がリアルだとか言われても、リアルなのは感じるけどオレその風景知らないし。懐かしいって感想見かけたけどお前いくつだよ…みたいな。なんかそういう感じで流されてホメなきゃいけない雰囲気なのがちょっとヤなんだけどさ。
でもこの作品が素晴らしいのは確かなので、そこはちゃんと感想言いたいかと。
 
えーと監督は「マイマイ新子と千年の魔法」の人で、これはずっと見ようと思って録画してあるんだけどまだ見てないです。この機会に見ようと思ってるけど。
というかとても言いづらいんですが、オレこの原作の絵柄が好きじゃないタイプの絵なんだ。もちろんキャラデザが上手いので絵自体は問題なく、単に好みじゃないだけで。
ただでも五頭身で子供の頃と大人になってからの差がわからないとか、その上更に手足が大きな漫画絵だってのとか全然可愛いと思えないんだよね。あと最初すごい絵柄的に入れなかったから、あのすずさんのアチャーって感じの笑顔も慣れるまでだいぶかかったと言っときます。見慣れたら可愛いと思えるようになったけど。
なので原作も苦手なタイプの漫画なので読んでないんだけど、これはちょっと興味はあるんで機会があれば読んでみたいかと。
とりあえず感想をサクッと。ネタバレです。
 
 
とにかく話は淡々としてるんだけど、その中の日常生活の中に見えてくる戦争描写が上手かった。
すずさんはかなりボンヤリした人なので描写としてあまり切迫感を感じないんだけど、普通の暮らしをするというだけのことがこんなにも大変で無理無茶を強いられるということが見ててツラかった。とはいっても途中戦争が激化してきて空襲が続いてくるあたりは、見ててストレスを感じてくるくらい同調してたよ。
これすずさんだから逆に毎日半径1メートルくらいで生きててあれやこれや出来なくなったことを考えないからいいんだけど、進歩的で自由に生きてきたお義姉さんが主人公だったらもっと辛い話に感じると思うなあ。
そういう意味では「べっぴんさん」とちょっと重なるところもあるんだよね。
ぼんやりして流されるままのすずと自分の意志で生きてきたお義姉さんはべっぴんさんのすみれとゆりみたいだし…と考えると、現在の今の状況ってって困難に立ち向かうヒロインよりも、地道に普通の生活を大事にするヒロインやそういう価値観の方が共感を得るのかなあと思ったり。
あとこの作品が世間の人々の心に響くのは、戦争に限らずここ最近の何度かの震災で被災体験をした人も多いからだろうなあとか、世界中がテロや戦争の影に怯えて不安定だからこそ、ああいう大きな力で普通の生活を踏みにじられることの理不尽さへの怒りを感じる人も多いのかなと。そんな中でこそ普通の日常生活を送ることを大事にしたい気持ちとかに共感するんじゃないかと思った。

それはともかく最近この手の戦争がある話を見てると、脳内で勝手に終戦や空襲までのカウントダウンはじめててツラいw
すずさんはぼんやりしていてピュアだけど、その分丁寧にこつこつ積み上げるタイプなのか、頑ななところや言葉に出して言わずに内にこもるところがあって、その分何がスイッチが入って爆発するのかわからないところがとてものん(=能年玲奈)さんと似てると思った。ついでにいうとオレは能年さんは苦手な方だし、あとよく考えなくてもすずさんみたいなタイプも実は超苦手。なので基本的には共感しづらいです。お義姉さんの気持ちすごくよくわかる(笑)

あと幼なじみの水兵になった水原が北條家にやってくるとこ。周作が水原を納屋に泊まらせてすずさんを行かせるところ、すごくわかるから辛くて悲しかった。もちろんすずさんの怒りもよくわかる。
でもすずさんは流されるままにお嫁には来たけど、まあああいう誠実な人が旦那さんならそりゃ恋もするよねえとは思ったんで、その意思表示をしたってことにはちょっとひと安心w
というか、すずが子供の頃のお使いの橋の上で俊作さんと出会っていたこと、本人ですら昼間見た妄想だと思って忘れていたんだけど実は…というところに運命的なものを感じてほっこりした。周作さんがお見合いに来た時からすずといつどこで会ってたんだ?とずっと考えてたよw
ただまああそこで彼に会ってなければ、もしかしたらすずも原爆にあっていたかもしれないと思うと運命ってのはあるなあと。

全体が水彩画のように柔らかいタッチなんだけど、しっかりしたリアルな下調べのお陰でかふんわりした印象なのにちゃんとそこに人が生きてるって感じられてよかった。
子供の頃、水原の絵を描いてあげたところ、日常的になんでも絵を描いているすずさんは、もしかしたら目に映るすべてがあの絵のように空想混じりに見えてるんではないかなあと思ったり。
だからこそ呉の爆撃のところで空を覆うそれが水彩のインクの染みのように見える非現実さや、右手を失って寝ているだけのすずさんを囲む家の背景が荒々しく歪んでいたのは、まさにすずさんの心の中のではないかと思ったり。心象風景が時々演出の描写としてはみ出てくるというか。
国と国とが戦争をするということを日常として実感できてなくても、普通の人たちはみんな毎日ごはんを食べなければならないということ。
ずっと食事のシーンが出てくるたびに「ああ、どんな時でもご飯は食べなきゃいけないよねえ」と思うと、毎日の献立を考えるの面倒くさいって気持ちとちょっとシンクロしたし。いやすずさんたちはそれどころじゃないんだけど、気持ちはわかる…みたいなw
あとその日々の献立で野草を混ぜたり、武将の非常食を再現してかさ増ししたり、途絶えがちな配給や対象的になんでも扱ってる闇市や、色街の風景もすずさんの目線だからあんまり現実感がないのかなあ。
そんな中の砂糖壺の話はほっこりしたw 子供レベルのおバカさんだよ、すずさんは…(苦笑)
だからこそ爆弾で晴美ちゃんと右手を失い何も考えられなくなってたすずさんが焼夷弾を躍起になって消し止めたり、爆撃機の機銃掃射の中飛び出したり、終戦の時に激しい怒りに囚われたのもわかるんだ。
普通の生活も満足に出来ず、それさえ困窮する中、一生懸命工夫して生きていたのは何のためなのか。国を信じて戦っていたのに、これだけ国民の普通の生活を犠牲にして唐突に戦争は終わりましたと言われても…という無力感と理不尽さ、そこからくる怒り。
子供を失ったお義姉さんは泣くしかなく家族を失った人たちも打ちひしがれているけど、普段おっとりぼんやりしてるすずさんだからこそそこで怒りというエネルギーを爆発させるのかと。普段言わない分、どれだけ溜め込んでいたのか。
その辺、ああこれはのんさんがやるべきキャラなんだなと理解したよ。
のんの純朴で子供らしい素直さを持ちつつもエキセントリックでどこで爆発するか分からない掴みどころのなさが、ふわふわしてマイペースでボンヤリしてるけどその分一生懸命で、ちょっと人とは違ってる妄想少女のすずさんに思ったより合ってるなあと。というか殆ど素だったw
でもまあ最後までハラハラしてたけど、北條の人たちがみんな死なないでよかったよ。(晴美ちゃんは気の毒だけど)
そういう意味では意外と死ななくてよかったと思ったんだけど、でも実家の妹は原爆症だしすずも右腕を失ってしまったわけで。でもあの状況だと生きてるってだけで十分だと思わなくもないというか、ほんと、生き残ったことが良かったと思うんだけどな。すずさんはそうは思ってないかもしれないけど。
実は防空壕からでたら家がなくなってた人のことをどう思ったんだろうとか、ずっと座り込んで亡くなった兵隊さんが自分の息子だったと気がついてなかった人の話だとかを、すずさんはたぶん人事に聞いてたんじゃなかろうかと思ったんだけど、最後に広島から孤児を連れて帰ったことでちょっとホッとしたというか。失ったものを悲しみ怒るだけじゃなく、前を向いて生きようと思ったのかなあと。
まあそんなことをいろいろ考えて見ていました。
 
観終わったあと70代位の男性が拍手してたけど、戦後の記憶が残る人たちにはまたいろいろ思うところがあるんだろうなあ。
んでまあ一応これくらいはわかった上で言うけど、やっぱりみんながそこまで絶賛する理由がよくわからないんだ。
アニメで生活感のある描写は宮崎アニメでだってたくさん観たし、普段からアニメの細かい描写や素晴らしい無駄に丁寧な作画とかを見つけては喜んでるので、この作品が特にほかより優れてるっていう気もしないというか。
戦争映画で戦争を描かず毎日の暮らしを描いてるのがスゴいって言っても、他の作品でもそういうとこは感じてるから改めてだからスゴいって言うより、これはそういう作品なのでそう描きましたってだけかな…としか。
あとオレ子供の頃(昭和40年代)はスゴい山の中の田舎のばあちゃんとこで過ごしたりしてたんで、普通に竈でご飯炊いたり段々畑の畑とかも身近だったし、食料自体が困窮状態にしてもすずさんたちの生活は特に目新しいものでもないのよね。それこそ子供の頃は「はだしのゲン」とか戦争の話もまだそんなに過去でもなかったし。
一応リアル知り合いでやっぱり同じようにに「うーん、ふつうだよね」って言ってる人はいたのでオレがひねくれてるわけでもないと思うけど。(たぶんこの空気でおおっぴらに言えない人はいるんじゃないかと予想)