そこがミソ。-ドラマや特撮感想などを気ままに

ブログ、感想は見た日の分にアップしたいので過去ログがいきなり埋まってることもあるってよ。

ハクソー・リッジ

http://hacksawridge.jp/
監督:メル・ギブソン 脚本:ロバート・シェンカン、アンドリュー・ナイト 原作:

 

メル・ギブソンが「アポカリプト」以来10年ぶりにメガホンをとり、第2次世界大戦の沖縄戦で75人の命を救った米軍衛生兵デズモンド・ドスの実話を映画化した戦争ドラマ。
人を殺してはならないという宗教的信念を持つデズモンドは、軍隊でもその意志を貫こうとして上官や同僚たちから疎まれ、ついには軍法会議にかけられることに。妻や父に助けられ、武器を持たずに戦場へ行くことを許可された彼は、激戦地・沖縄の断崖絶壁(ハクソー・リッジ)での戦闘に衛生兵として参加。敵兵たちの捨て身の攻撃に味方は一時撤退を余儀なくされるが、負傷した仲間たちが取り残されるのを見たデズモンドは、たったひとりで戦場に留まり、敵味方の分け隔てなく治療を施していく。
「沈黙 サイレンス」「アメイジングスパイダーマン」のアンドリュー・ガーフィールドが主演を務め、「アバター」のサム・ワーシントン、「X-ミッション」のルーク・ブレイシーらが共演。第89回アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演男優賞など6部門でノミネートされ、編集賞と録音賞の2部門を受賞した。(「映画.com」より)

 
なんかもう凄すぎ。戦争映画はあんまり好んでは見ないんだけど、(引き合いに出されてる「プライベートライアン」も見てねー)、15分×2回以上戦闘シーンが続くこの戦場はトラウマレベル。しかも爆発にVFXは使ってないんだよね。ナパームすげえ。よくこんな撮影できたなあ。ものすごい臨場感で、それだけでも「戦争、ダメ絶対!」と思える映画だよ。
主役のドスは臆病(というのとは違うと思うけど)でカッとなって人を殺しそうになったことがトラウマで人を殺さない…どころか銃を持つことすら拒否してるのに、人を助けるために軍隊に志願するという、実話じゃなかったらありえねーって言っちゃうような設定。訓練の時くらい上手いことやり過ごせばいいのに頑なに拒否して軍法会議に掛けられ(その理由もおいおい明かされる)結婚式もパー。
どれだけ訓練したのかわからないけど(時間経過的に)、宣伝ではまったく触れられてない沖縄戦に向かい、米軍が6回アタックして6回負け続けているという狂気の断崖絶壁上の戦場に。そこは「沈黙」に引き続き神の声が聞こえるわけでもないアンドリュー・ガーフィールドが信仰心を試されてるのか?みたいな。てかこれなんでドスが初参加のあの戦場で助かったのか分からないし、本当に神の奇跡レベルなんですけど…。
こんな脚本、これが実話で本人たちが最後に出てこなかったら突っ返されるレベルにご都合すぎるストーリーですよ?(しかもドス役のアンドリュー・ガーフィールドがすごい痩せっぽちのガリで余計にそんなバカなと思ってたけど本人もそのまんますぎるくらいやせっぽっちだった!ありえねえ)
戦場の状況は爆発が本物だってこと以上にそれが「近い」のが怖いんだよ。ものすごい地面に近いというか、爆発する位置がカメラにすごく近くてしょっちゅう土がパラパラと跳ねてくるし、銃弾はカメラに向かって飛んでくるし、その弾が当たれば隣の人は簡単に死ぬ。その時の「パスッ」「パスッ」っていう軽い音とヘルメットに当たったときの「チーン」っていう澄んだ金属音が、行ったこともない戦場真っ只中にいるかのようなリアリティを押し付けてくるんですよ。その間ずっと拳握りしめて思わず前のめりになりすぎてて、メチャ緊張するんですよ。まるで地獄絵図なんですよ。オレマジにあんなとこいたらすぐ死ぬかも。両足ちょん切れて助かるのもちょっと嫌だけど。

そんな大混戦の戦場は超怖いし向かってくる日本兵はゾンビ並みに恐ろしいし。
そして何より日本兵にああいう戦いかたさせる日本軍は気が狂ってる。体半分ちぎれた仲間を助け続けるアメリカ軍は仲間を見捨てない(正気の沙汰じゃない)のに、海上からの艦隊砲撃でも怯まない日本軍がやっと白旗上げながら降伏したかと思ったら自爆テロ&司令官は腹切り。何もかも狂ってるよ!もちろんそんな中で一人でまだ生きてる負傷兵を助け続けるドスも狂ってる。この映画はあの戦場で一体誰が正気なのかを問いかけてるよ。
あとドスが仲間を助けてるんだから、せめて誰か崖の上で仲間を下ろすのくらい手伝ってやれよと思ったな!
それはともかくドスの信仰心からくる良心的兵役拒否(何じゃそりゃ)を認めるアメリカ軍は懐広すぎ。隊に全裸のやつとか足にナイフぶっ刺してるマヌケがいても軍曹は感情任せにぶったたいたりしないし、リンチが行われたらちゃんと話も聞いてくれるし上官はみんないい人たちだな! ベトナム以降の戦争ものじゃみんなストレスでおかしくなってんじゃんよ。人間やっぱり余裕なくなるとストレスのはけ口が必要なのか。むしろこの映画のアメリカ軍はあまりにも兵士たち個々の事情を尊重しすぎてて逆に落ち着かねえw
ネタバレもクソもないけど、まあ内容はこんなとこで。
 
ただ前半、沖縄に行くまでのドスの背景は割と丁寧に描いてるんだけど、それでもドスが軍隊に志願した理由や良心的兵役拒否権の使い方は説明なさすぎるかなあ。真珠湾攻撃のこと言ってたけどそれがでどう思ったとか、何の根拠で衛生兵なら志願できると思ったのか、その辺。
あと結婚式の時の何の連絡もしない様子とかは当時の世相がどんなだったのかわからなかったかなあ。最初の休暇でという割に何の連絡もなしでいいのか?まあそこは問題じゃないんだろうけど。
最初の方のエピソードで兄ちゃんやドロシーと崖を登ったりするのはハクソー・リッジでの活躍の前振り?いいけどデートで崖に登るのもよくわからないけど恋人に手を貸さないのもよくわからんけどな。
あとどうもドスの行動のよくわからないところ、一目惚れしたドロシーに声もかけないうちにプロポーズしに行くとか(それともお約束のナンパネタなの?)、キスの件とか距離感おかしくねと思ったし、看護を学んだわけでもないのに衛生兵になるとか(本は読んでたけど)、軍隊の訓練中にそこで笑う?ってとこでニヤついてるとこ多くてちょっと頭おかしくない?って思ったり。
あの信仰に対して妄信的な単純さとか考えると人物像として普通の人ではないよねえ?といろいろ腑に落ちないところもあって。(そういや真っ当に志願したせいで追い出された兄ちゃんどうなった?)
帰りに後ろの人が「フォレスト・ガンプみたいな話かと思ってた。頭が弱い人が主人公というかー」みたいな話ししてるの聞いて思ったのは、ドスってやっぱりそういうことじゃないかなあと。(普通いくらなんでも結婚式の確認くらいしないか?)
武器を持ったら人を殺してしまうかもしれない、だから武器は持たないという信仰の思い込み=融通が利かなさがトラブルを起こしてるのは事実だし、上官や隊の仲間たちの生温かい扱いと彼の頑なさ。ひとつのことに集中する単純さが死を恐れずにあの戦場で一人負傷者を助け続けることが出来たとすると、それはやっぱりそういうことなのかなあと。
フィクションならもう少し盛って美談になるんだろうからそういう扱いではないし、最後に本人がでてきて語ってるからそれを面と向かっては指摘できないところまで含めて計算なのかなと思ったり。だってどう考えても日常生活に支障はないくらいの頭弱い人だよね?(単純で信仰心が強い人は大抵そうだと思ってるけど)
まあだからこそそんな奇跡が起こせたのかと思うと、それはそれでなのかなあ。
その辺の夢中さ、必死さはなんか心を打たれて泣けたよ。
まあそれでも戦闘が終わってサム・ワーシントンの大尉がドスに謝ってるのを見て、ああ情けは人のためならずだなあ…と思ったオレであった。アメリカ軍は良心的兵役協力者を優遇したおかげで75人もの仲間が命は落とさずに済んだってことですよ。
まあ数十人の命が助かったとしても、それ以上の人間が死ぬのがわかっててあんなところに突っ込んでいくっていう戦争のバカバカしさはとても伝わりました。沖縄戦のこの時期に公開するには日本にとっては(日本軍の描写もあって)皮肉が利きすぎてると思うけど。