そこがミソ。-ドラマや特撮感想などを気ままに

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ウォッチメン

http://www.watchmenmovie.co.uk/intl/jp/
監督:ザック・スナイダー 脚本:デヴィッド・ヘイター、アレックス・ツェー 原作:デイヴ・ギボンズ

 
原作未読どころか、全然知らんかった。アメコミ系は一時そこそこハマってたのに。だもんで殆どなんの予備知識もないまま見に行きましたが、オレ的にはエライ面白かったです。
これあんまりお客入ってなさそうなんだけど、普通の人には相当ハードル高いと思います。
原作の時代設定の1985年当時の東西冷戦構造の雰囲気というか、終末時計とか、核の恐怖におびえるあの当時のやったらやり返すから手を出すなとか、そういう緊張感があってこそのこの話だし。
その上である程度ああいうアメリカンヒーロー物の知識というか、「記号としてのアメリカンヒーローの意義」が判ってないと楽しめないかも。原作がDCコミックだから、単体だけじゃなくジャスティスリーグ辺りまでは知ってないと‥‥って感じかなぁ。そして物語の主題もずいぶん判りにくいかも。キャッチコピーの「誰が見張りを見張るのか」ってのはちょっと内容に対しては引っかけくさい気がするから、そういうつもりで見てたらちょっと違うというか理解出来ないかも知れないねぇ。
「300<スリー・ハンドレッド>」のザック・スナイダー監督ってことで、画面的には相当凝ってた感じ。
特に原作と同じ時代設定だからか、最初の方のTV番組の画面がいかにもあの時代のブラウン管テレビっぽいざらつき感と色味で、(といっても記録映像とかで見るアメリカのテレビの画面って意味での)何となくあの時代なんだなぁって気にさせられるよ。映像的にその辺は突っ込んでもオレごときじゃ突っ込みようがないのでとにかくスゴかったしカッコよかったとだけ言っとく。アクションシーンは迫力あったし、フクロウ型飛行艇とか街並みとかいろんなとこのVFXの描写の拘りがいちいち細かくて、架空の世界のリアティーとしての現実感が感じられたし、スーパーヒーローのコスチュームがいかにもそれっぽくて、いろいろよく出来てました。予算が違うとはいえ方向性としては「K-20」と同じだと思うから、なんかいろいろ拘りの想像力の差は感じるなあ‥‥仕方ないか。あとは映像センスの問題だしなー(^_^;)
最後にどんでん返し的な展開があるんで隠しときます。原作読んでないんで、全体に的外れてたらすいません。
つか言いたいことは明確にある割にグルグルしてまとまりません。やっぱ情報は多い割に細かいとこで自分が情報持ってないから想像でも断定出来ないんだもん〜
オレはこれは個々の「正義の概念」の物語として、大変興味深かったです。
 
やたら長いし過去回想で登場人物のキャラ説明が入るから、見てる間中、頭フル回転して一体この話は何処へ行きたいんだろうと思いながら見てたんだけど、クライマックスで何がやりたかったのかは判りました。「正義」を描いたものとしてはある意味傑作だと思う。
基本的にはコミックスのスーパーヒーローが本当にいたらどうなるのかというアナザーワールドの話ではあるんだけど、そういうところをこの世界で「すでにあった事実」としてOPで流して説明してるんで、その辺は情報量多いけど大体のところは何とかつかめる感じかな。
でもって、本当にそういう存在がいたらどうなるか?政治家がヒーローを政治的な道具に使い、戦争に送り込んでアメリカを勝利させる。人々は自警団気取りのヒーローたちにウンザリして、実際ごろつきのギャングも取り締まる側のヒーローもやってることは同じだと見なして猛反発。結局誇大妄想狂の自警活動禁止法=ヒーロー禁止法で規制される始末。(これはニクソンの政治的意図っぽい)
バットマン」でだったか、自警団気取りのヒーローというものを誇大妄想狂として、マスクをかぶった犯罪者と同じ、パラノイアとフリークスのイタチごっこ程度に揶揄ってたけど、まともな人間なら自己の正義の押し付けのために身体を張るなんて出来るわけないんだよね。善と悪の判断は自分の心の中にあるものだし、そんなこと他人に言われたくないのは、犯罪者であっても一般人であっても同じね。
まあその辺の自意識の使いようでヒーローは戦争兵器にもなるってことでは危険な存在でもあるし、その価値を考えたら人知れずスパイのように使うのが得策だと考えるのは判らんでもない。ちなみにこの世界ではニクソン大統領は3期目だか4期目だからしい。「今までの大統領ならやらなかったこと」としてヒーローを自分が好きなように使ってるって、やっぱ悪人ってことか?その辺の知識に明るくないんですが。
 
一応ヒーローたちはみんなそれなり格闘術を身に付けてるのか相当強いんだけど、それは人間レベルでのね。
だけどそういう誇大妄想狂のコスプレ集団(恥ずかしいという認識はあるらしいし、それで目立つのがいいという認識もある)の中に一人だけ本物のヒーロー、というより「超人」がいるというのがこの話の一つのキモで、それがアメコミでよくありがちな、核研究中の事故でスーパーパワーを身につけてしまったフリークスのDr.マンハッタン。(たぶん能力的にはJLで言うところの火星人ジョン・ジョーンズ)青い素っ裸のフルチン男。(中の人、大変だったろーなー‥‥モロ見えだし)
この作品の主人公はヒーロー禁止法のあともひっそり活動を続けていたロールシャッハという男なんだけど、「ヒーローだって人間だ」というのが基本のこの物語の中で、彼だけが本物のヒーローだったと思うんだよね。それは「ヒーロー」というものが、人々を守るために自分を犠牲に出来る存在だ、という意味では。
他のヒーローが人間らしくいろいろなことで迷ったり悩んだり、ヒーローを辞めたことでアイデンティティを失ってたりするのは、彼らがヒーローであっても「人間だから」で、それと比べるとロールシャッハは、それが生まれた経緯もあるけど「人間を守るために人間性を捨てた」彼の正義には迷いがないんだよね。黒か白、善か悪かで悪に対しては容赦がない。その正義は正しいものではあるけど、劇中で「平和のために暴力という手段を使うのは間違ってる」というように倫理的には間違ってるってことなんだと思う。
でもそんなロールシャッハと比べるとミスターオウル(バットマン的なもの)=ダンやシルク・スペイター=ジュピターは人間的ではあるけど、時として偽善的に見える気もするし、ヒーローってのは悩む方がいいのか揺らぎない方がいいのか。ロールシャッハの名前の由来のように彼の白黒のマスクは常に揺らめいてて定まらないんだけど、顔の模様は揺らめいてても彼の正義に揺らぎはないんだよね。まあそれでいったらコメディアンでさえ彼の正義というものはあって、ただそれは暴力と紙一重ってだけなんだけどね。
ストーリーは、そのコメディアンという人としてもだいぶ下衆な、自らの暴力性をヒーローの仕事で発散する男が何者かに殺され、それが「ヒーロー狩り」(ってかそんなに狩られてない気も)だと気がついたロールシャッハがその事件を追ううちに冷戦を終らせるための陰謀、知ってはいけない真実を知ってしまう。その時ヒーローたちは己の正義としてどうするか、という話ね。
ここから本当にネタバレなんですが。
 
この物語背景として、ヒーローのお陰でベトナム戦争に勝ち、以降、核の脅威にさらされるの冷戦下の世界というものがあって、非常に緊迫した状況というのがあるんだけど、この辺は冷戦が判ってないとそもそも世界の脅威が判らないかも。
で、どうすれば冷戦下の世界が平和になるのか?
ヒーローの一人、アレキサンダー大王に影響を受けてヒーロー活動を始めたオジマンディアス=ヴェイドが冷戦終結の陰謀の黒幕で、それに気がついたコメディアンたちを殺し、彼が思う正義を実現する計画がこの話のクライマックス。
彼の思う世界の平和の実現は王の考え方で、自分以外の多くを犠牲にしても世界が統一されて平和が実現すればいいという考え方ね。それが世界のためだというある意味犠牲的精神。しかしそのために主要都市を焼き、仲間のDr.マンハッタンにその罪を押し付け、でもそのお陰で核投下間近だった東西世界が一つの敵のものとに共闘して平和が実現。
ダンとジュピターはそれを知ってしまったけど、それで平和が実現したんならと思って真実に目を瞑る。彼らは人間だから、真実を暴くことが必ずしも正義ではないと知ってるのね。それが多くの犠牲の上に成り立ってても。
ロールシャッハだけは己の正義感によってその言い分に耳を貸さず、その真実を公表しようとする。彼はそういう「悪」を黙ってることは出来ないんだけど、結局はDr.マンハッタンに自分自身を殺させることで、自分を犠牲にして真実よりも多くの人間の命と平和を選んだわけ。この辺が孤独のヒーローチックで、妥協出来ない正義を持ってしまったヒーローの悲劇というか、ちょっと泣けるんだよね‥‥
Dr.マンハッタンなんだけど、彼は人間としての感情はほぼないけど理解はある、すでに神に近い存在なので、人類のためにロールシャッハを殺すことが正しいことだからと、迷いなく彼を消滅させてしまったわけですよ。それが人類にとって最善だったと。人に人は裁けないけど、彼は人を越えた「神」だから‥‥
劇中で繰り返し出てくるのが「笑えないジョーク」という言い回しだけど、コスプレのパラノイアたちをヒーローということも、世界平和の陰に一人のヒーロー気取りの人間の大量虐殺という真実があったこと、世界平和という大義のためにそれを良しとしてしまったことも何もかも笑えないジョークみたいなもんってことなのかなー。
最後のオチは街の新聞社の編集長が、元ヘボ役者のレーガンが大統領選に出馬したことを「笑えないジョークだ」というんだけど、見てるこっちはレーガンが当選することは知ってるわけだから、まさに世界は笑えないジョークで出来ているということでしょうか。
そして以外と抜け目なく賢明なロールシャッハが新聞社に送り付けていた、これまでの顛末を書かれた手紙と日記がどうなるのか‥‥。
真実を暴くことは必ずしも正義ではない、個人の正義を貫いて平和を失うのか、目を瞑って平和を享受するのか、映画の最後もロールシャッハテストのように見る人に委ねられちゃったって感じ。だって正義は個人の心にあるから。

なんかまとまりないけどまあいいか。そんなに誰にでもお薦め出来るものでもないけど、オレは面白かったです。
それぞれのキャラのこととか結構深くてキリがなさすぎるんだけど、これって彼らの正義に対する認識・判断の問題だから、そこをすっ飛ばすと面白さ半減すると思うんだよね。彼らがああいう判断をした、ということがこの映画では重要だし、ストーリーよりもその部分が大事だし面白いということを、監督がよくわかった映画でした。(原作知らないけど)小ネタもたぶん結構入ってるんだろうなー。判んないんだけど(現実の歴史を思い出すので精いっぱい)
ロールシャッハの素顔が妙に子犬系で陰があるのは、監督のお好みなんだろうか、もともとそうなんだろうか?萌えキャラ?そしてナイトオウルの寒冷地用コートは笑えるw なんかここだけ萌え展開?(笑)何でコメディ仕様?