そこがミソ。-ドラマや特撮感想などを気ままに

ブログ、感想は見た日の分にアップしたいので過去ログがいきなり埋まってることもあるってよ。

重力ピエロ

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スゲー面白かった!これはいい邦画ですヨ!これもROBOT絡みだったのね。どもアリガトMR.ROBOT!
森淳一監督は経歴殆どなし、脚本相沢友子(面白いと思ったことないけど)だけど、なんかいろんなものがちょうどよかった。
伊坂幸太郎の原作はおろか、伊坂自体読んだことないんで、どの程度削られてるのか判んないけど、たぶん枝葉の細かい話って全部すっ飛ばされてるんだよねえ?こんな本筋だけの小説ってないと思うし。でも映画の場合はこれで良かったと思う。過去の事件を主軸とした家族の繋がりと、ちょっとばかりの謎解き、物語の結末がスッキリまとまっててわかりやすかったです。
以下何となくネタバレです。
 
冒頭エピ、「春が、二階から落ちてきた」っていう泉水のモノローグと映像のリフレインが文学的な文脈としても美しくて、一見似てない兄弟をすごく印象づけるけど、似てる似てないでいえば泉水と春はすごく似てると思う。
見た目はもとより性格とかは違うように見えるんだけど、もっと発想の根本が似てるし行動が似てるんだよね。それはやっぱり家族の繋がり・家族の遺伝子を強調してるお話でもって、そこかしこに家族が似ているという描写があること以上に、結局血の繋がり云々よりも過去のレイプ事件からの家族の有り様を常に考えてきた彼らだからこその絆であって、そういうことを考えさせられるラストだったと思う。
たぶん謎解きモノなんだろうけど、映画を見てる限りではあまりそこに焦点は合わせてない‥‥ってのは、小説と違って映像がついてるってことで、どうしても春が関わるグラフィックアートが‥‥って部分で途中違和感を持つんだよね。でもって春が絵の才能があるって判る辺りで何となくああ‥‥と思うんだけど、そこはメインじゃないからいいんだ。遺伝子の話もそう。だって泉水が生物学をやってるからこそその謎かけだってのは春本人が言ってるんだし。春がそれだけ頭が良いってことより、クロスワードパズルとかの方がそれを示唆してたのかなあ。そういう発想をする人って意味で。
どっちにしてもこの兄弟、真相が判った時点で葛城を殺そうとしてるんだよな。泉水は一人でも出来たんだろうけど、春はお兄ちゃんに知って欲しかったってのもいい。「悪者退治にはバットと兄貴がつきものでしょ」ってのも。たぶん春ってそういう子なんだよな。何に対してもふわっと二階から飛び降りるような。後先考えてないんじゃなくて、計算ずくで無茶がやれるような。(それもたぶん兄貴とバットがあれば、なんだと思うw)
泉水と春は違う名前だけど英語で言えば同じ「spring」ってのは、この兄弟が根っこは同じだっていうことと、そうあって欲しいっていうお母さんの願いが入ってるんだろうし。
春が放火を選んだのは、まんまレイプ事件を浄化するって意味なんだろうけど(それも過去の新聞の地図が出たとこで想像はつくんだけど)、ミツバチがスズメバチを撃退する方法、劇中では説明されなかったけどあれって人(蜂)海戦術でスズメバチを取り囲んで周辺温度を上げて蒸し焼きにするんだけど、それも意味してるのかな。ミツバチとスズメバチって耐熱温度が違うからスズメバチの方が先に死ぬらしい。よく出来てるね、自然って。
もちろんこのスズメバチは葛城のことなんだけど、レイプを悪いことじゃないという彼はたぶんミツバチを襲うスズメバチのように、生物学的な意味では「悪じゃない」ってことなんだろうけど、だから同様に春と泉水のやったことは人間の社会としては犯罪だけど、「悪いこと・悪」ではないんだよね。だからあのラストでいいんだよな。
レイプ事件に対する世間からの「重力」を家族で楽しく笑うことで乗り越えてきたように、そういういろんなしがらみの重力から解き放たれてこれからを生きていくのがあの兄弟なんだろうし。"笑ってるうちは落ちない"んだよね。そうあって欲しいです。
なんか余計な部分がなくスッキリシンプルな話なのが本当によかったし面白かったです。
 
いや実は妹が先に見に行ってて「岡田と加瀬は見る価値満点、後味悪さも満点」ってメール送ってきててからちょっとドキドキしながら見てたんだけど(余計なことを!)、なんてことない「俺たちは最強の家族なのだ」でいい話だった。うん、いいんだよ、これで。(ああ、倉石さんに殺人は殺人だって言われちゃう!)
岡田くんはやっぱり主役って感じで出番が多いと、ちょっと表現の技術として拙いところが目立つんだけど、そういう問題じゃなく彼はいいよねー。原作読んでないけど、たぶんホントに「春」って感じなんだろうと思わせるところがすごく良かった。
前にポスト水嶋ヒロ岡田将生だって言ったけど、イケメン枠としてのポストヒロたんはそうだけど、俳優としてのポテンシャルは比べようもないと思いますよ。現時点ではヒロたんの方が「見せ方」としては判ってるんだけど、演技力は表現力含めた役作りとしての力は岡田くんの方が遥かにあるよ。ヒロたんファンとしては残念なことですが。そういや彼って左利きなのね。たぶん相当器用なんじゃないかなあ。
それにしても泉水と春ってと2〜3才しか違わないはずだよねー?このキャスティングはあまりと言えばあまりだよなw でも加瀬亮は全く文句の付け所もありません。当然。映画誌の対談とかは何となく見てたんだけど、てっきりああいう年齢差の兄弟だと思ってたよ。リアルだと一回り以上違うでしょ(苦笑)
あとはまあ鈴木京香がお母さんってのは現代に出てるんならともかく過去の話は相当微妙だなあ。20代前半って設定だよね、きっと(笑)それとも小日向さんに合わせたんだろか?
吉高が意外と出番が少なかったことが残念だけど、あのルックスで昔のブスなストーカー風の行動を取るところがなんかブサカワイかった(*´∀`*)
あ、渡部はキモかったです、いつもどおりw

追記。

パンフ読んだら、これってもともとは相沢友子の企画だったみたいですね。でもパンフのインタや対談を読む限りでは、仕切り直しの時に森監督が入ってきて方向性として今の方向に定まったって印象はありますが。謎解きミステリーでなく家族の重力の話にまとめたのは正しいと思う。
あとそういやCG使ってなかったなーと思ったけど、(最後の火事のところですら)中途半端なCGは使わないって方針だったってのも納得。ほぼないよね。ロケ地エピといい編集エピといい、森監督の画面に対する拘りが方向性としては今の映像系作家としては違うベクトルに向いてたのもよかったのかも。すべてがコントロール出来るわけじゃない、ってことを判ってるって意味でさ。
映画自体が気持ちいいのは、そういう瑣末な自分内の拘りよりも優先して描くべきものがあるってのを判ってる爽快さかもね。見てて気持ち良い映画だもん。