そこがミソ。-ドラマや特撮感想などを気ままに

ブログ、感想は見た日の分にアップしたいので過去ログがいきなり埋まってることもあるってよ。

カラフル

http://colorful-movie.jp/


監督:原恵一 脚本:丸尾みほ 美術監督:中村隆

そういや原監督の作品は、そうと知らず見たクレしんの「オトナ帝国」くらいです。あれもすごかったな。
前情報はたまたまTwitterで流れてきてた「背景はすべて加工でなく手描き」だってことくらいで、キャストくらいは誰が誰をやってるのかくらい知っとけばよかったと思いました。いつものことだけどな! (^_^;)
お父さんが高橋克実だってのはさすがにわかったけど、お母さんが麻生久美子、ブスっ子の佐野唱子が宮崎あおいだとは思わんかった。上手すぎる(笑)あと後輩の援交少女・ひろかが南明奈だとか、真の友達になる早乙女くんが入江甚儀だとかさ。入江くんは名前あるのはそういや知ってたけど全然気がつかなんだよ。ああもったいないことをしてしまった。入江くんは地味に仕事こなしてるなあ。そしてお父さんが高橋克実なのはちょっとイメージ違ったような気が。もうちょっと細い感じの、小日向さんくらいが良かったかもなーとは思った。高橋さん、声の押しが強すぎるw

オレ思うに、面白かったし非常に泣けたシーンもあったけど、これって実写でやってたらよくありがちな、普通に凡庸な(まあ監督にもよるだろうけど)映画だったんじゃないかなあ‥‥って印象。アニメ、しかも背景が異様にリアルな実写と見紛わんばかりのクオリティの「アニメだからこその」非日常感が、この何でもないありがちな日常の風景の中での主人公の生き方・考え方が響いてくるって感じ‥‥かなあ。うん、話は凡庸だと思う。テーマもだけど。ただ作品としてのクオリティはものすごく高い。
大人よりも、今現実に中学生高校生の人たちが観るといいと思うよ。マジで。オレはサマウォやアリエッティよりはこれの方が好きだし良作だと思う。
背景は本当にスゴかった。「ちゃんと描いてる」って意味が見始めてわかった。そうでなくてもあれくらいなら気がついたと思うけど、(よく見るとちゃんとタッチが付いてる、特にモノクロのやつ)川とか雲とか動きがあるヤツはさすがにCG‥‥かも知れんが、基本的なとことは描いてるんだよなあ?写真かと思うくらいのクオリティ。エヴァとか東のエデンとか取り込み加工系の背景が最近多いにしてもスゴイ。というか、「実写を使う」ってことと「わざわざ描く」ってことの意味の違いが、この作品がアニメだってことの意味くらいはあると思うかなー。
以下ネタバレで。
 
話‥‥というか、設定は死んだはずの「ぼく」が同じく死んだばかりの「小林真」という少年の体に入って自分が犯した罪を思い出すためのホームステイという名の修行をする‥‥という非日常なファンタジーだけど、内容自体はすごく日常のことを地味に描いてて、実は最初全然入り込めなかったんだよね。
「ぼく」が入った小林真はカワイクないいじめられっ子属性で、肝心な本人情報はボンヤリぼかされたままでやたらリアルすぎる背景もあって、リアルなんだかそうでないんだかわからないまま日常の話を延々と展開していくっていうのが、退屈ではないんだけどとにかく「他人の家の事情」感が強すぎて入り込めない感じかなあ。
ぼくが入った真だけど、元の真がどんな子だったのかっていうのはあまり説明されないままだし。
ただその「ぼく」の他人事なお気楽感というかそこら辺の明るさか、多少吹っ切ったとこから早乙女くんと友達になった辺りで急にかわいくなってきて、表情も生き生きし始めたところからなんとなく真の「ぼく」に入れ込めるようになったら、とたんに面白くなってきた感じかな。
オチを言っちゃうとこれって結局真に入ってた「ぼく」は実は「小林真」本人で、犯した罪は自分を殺したこと、つまり自殺したことだったんだけど、それも実はそんなに無理がなく「えーっ?」じゃなくて「ああ、なるほどねー」と思える感じだったのが伏線描写が上手いというか、いろいろ腑に落ちるところというか。重要なのはオチではなく、真が変わっていく過程だっていう点に見せ方を絞ってるのが上手いところ。意外とこういうのって実写監督って出来ないんだよなあ。演じるのが生身の役者でコントロール出来ないからか? *1
んで、それは「ぼく」の入った真(以下面倒なので「真」で)が、浮気をしていたという事実は知ってるにしても気持ちとして母親を毛嫌いしてるということや、時間経過がわからないけど昔から住んでたかのように二子玉の地理に詳しいってこと、スケッチブックの在処を当たり前のように知ってたってこと、本人じゃないからと言って絵を描かなかった真がスケッチをしたら上手かった(お父さんもそれを当然だと思ってたこと)という細かな積み重ねで最後のオチが納得出来るだけでなく、そこまでの真の行動が本当の真の行動にかぶってくるってことで、真がちゃんと自分を生きていると思えることかな。
だからこの「カラフル」というタイトルの意味というか、今まで(自殺するまで)の真が見てた世界は一色しかない世界だと思っていたけど実はいろんな色があって、それも一人の人間だってその時々で違う色があるんだということを知るってことね。(それは真が大人になるってことだと思うんだけどそこまでは突っ込んでない)
ただいろんな色があってもいいと思えることが、自分にも自分に関わる誰かにも救いになることを知ったということ。今まで見てた日常がまったく違うものに見えたっていうひとつの視点の転換点の話で、全ては非日常でなく日常なんだということかなと。
でもそれは真が死んだから‥‥であって、それは「ぼく」の入った真だけじゃなく、家族や周りの人間も、ってことだよね。真が死ななかったら、お父さんもお母さんもお兄ちゃんも変わることがなかったというのは皮肉な話ではあるんだけど、それがそもそもこの世の中ってものかも知れないもんな。
とにかく泣けたのは真の進路の話のとこなんだけど、そこまでの食事のシーンの積み重ねがあそこで全部意味を持ってくるというか、まあ単純にみんながどういう思いだったかを真が知る、それが真が自殺をしたからだという、そういういろんな思いの爆発するところでカタルシスがあった‥‥ってことなんだけどね。ネタバレるシーンよりここだよなあ。
あと早乙女くんとのシーンは全部すごく良かったな。

真が生前どんな目に遭っていたかっていうのはネタバレ後に映像で説明されるだけなんだけど、だからこそ、そういう目に遭っているリアル中学生や高校生たちに、今の自分が見てる景色がどんなものであっても、本当の世界は思ってるのと違うかも知れないってことを知って欲しいと思うというか、そう思うような作品だった。
逃げ出すのでもいいけど、真のように友達がいるということがどんなにも支えになるのか信じてみてもいいと思うし、そのためにどう在ればいいのかというひとつの答えはあると思う。
自分だけの世界を持ってることや、それを共有できる友達が居ることがどんなに心強いかとか、なんてことない冒険をしてみたり(路面電車跡を辿るやつね)、肉まんやチキンを分けあって食べることの楽しさとか(早乙女くんがわざわざ大きく割った方をくれるんだよな、真にw)、なんか本当に些細なことが救いになって世界が違って見えることってあるんだよなー。
真も場合もそこからいろんな見え方が変わってきたってことだし。話自体は分かりやすいと思うんで、ひろかとか佐野唱子とか突っ込まないけど、まあそんなとこで。
それにしても早乙女くんはいい奴だなあ、本当にw
 
そういやオレがそう感じたってだけなんだけど、「ぼく」が入った真くんが、最初の方なんとなく岩明均のマンガの主人公みたいな感じだったんだよな。客観的というか、自分のことをちょっと茶化してるような客観性。それがなんかちょっと面白いと思ったかな。
あと気になったんだけど、小林家の食卓でお漬物(たぶんぬか漬け?)が大きな皿にたくさん盛られてるのが、なんか他所んちの食卓だなあと‥‥と思ったw

*1:ストレートに言うと、描く作品の世界観をコントロールする能力や完成度って意味で、多くの実写監督よりアニメ監督のほうが優れてると思ってる‥‥って話。