そこがミソ。-ドラマや特撮感想などを気ままに

ブログ、感想は見た日の分にアップしたいので過去ログがいきなり埋まってることもあるってよ。

ブリッジ・オブ・スパイ

http://www.foxmovies-jp.com/bridgeofspy/
監督:スティーヴン・スピルバーグ 脚本:ジョエル・コーエンイーサン・コーエン

 
実話ベースの話でコーエン兄弟の脚本×スピルバーグ。冷戦時代の捕虜交換交渉の話なので淡々として特に派手な場面もないけど、そこここにちょっとした笑いもありつつ程よい緊張感が続き、最後はじんわりと泣けるいい話だった。
社会派ネタだけど予備知識なしでも普通に楽しめるのでオススメ。
オレはコーエン兄弟のはそんなに見てないけどわりと渋いハードな感じだよね。それがスピルバーグの退屈させない演出術のエンタメさとちょうどいいバランスで、しかも過剰に泣ける話にしてないところが良かった。
1957年の冷戦時代にたまたまソ連のスパイの弁護をし、更にそこからソ連に捕まったアメリカ軍捕虜と東ベルリンで捕まったアメリカ人大学生との捕虜交換にもっていった凄腕だけど普通の一般市民である弁護士ジェームス・ドノヴァン(トム・ハンクス)の実話を元にしてるらしいです。オレが生まれる前なのでその事件はよく知らなかったよ。
だから劇中で言ってた通りに捕虜交換の話にはなるんだろうと思ったけど、ドノヴァンとアベルの交流とアメリカ軍の偵察部隊、ベルリンの大学生の話が特に説明なく発生してじわっと絡んでくることや、2人分の交換案件を1件だと言いはるドノヴァンのその交渉自体の成り行きは地味だけどまったく退屈させず面白かったです。(以下若干ネタバレに触れますよ)
 
ソ連のスパイは世間的には有罪(死刑)が暗黙の了解で、形式ばかりの弁護をしろとの政府からの依頼をスパイであっても人権は守らねばならないと言い張り、なおかつ冷戦下においていつかあるだろうソ連との捕虜交換のために生かすべきと主張するドノヴァンは非公式にソ連との交渉役をすることになる。弁護士としてソ連のスパイ・アベルと接するうちにお互いの信念の強さゆえに段々と信頼と友情を感じるようになるのが(どこまでが史実かはわからないけど)丁寧に描かれていて、トム・ハンクスの誠実な雰囲気と相まってちゃんとそれが正しいことだと思わせられるよ。
友情は信頼によって結ばれるけど、その信頼は論理的で筋の通った行動と信念(正義)で培われるものなのだなあと。
それを直接的に描くんじゃなく含みをもたせた描写でいろいろ察しろというのもよかった。最後、アベルからの贈り物とあちらに返された彼がどう扱われるか、それをずっと見守っているドノヴァンが良い。ちょっとじわっときた (´Д⊂ヽ

途中でベルリンの壁の背景を知らないとダメなやつかと思ったけど、脚本が良かったのでちゃんと分かるようになってるんで大丈夫だったよ。
劇中でも日付自体は出てくるけど確認したらアベルの弁護を引き受けたのが1957年、アメリカ軍の偵察機が落ちてパワーズが捕虜になった事件が1960年、捕虜交換の交渉をしてる1961年に東西ベルリンを分断する壁が作られ、最終的な捕虜の交換成立は1962年らしいです。
というかあのベルリンの壁と死のラインのとこ、ちょっと前に見たトンチキスパイ映画(「コードネームUNCLE」)では東ベルリンでカーチェイスやったあげくあの死のラインを車で飛び越えてたよね?って思いだして微妙な気持ちになった。そんなこと思い出さなくていいよオレ…(^_^;)
ドノヴァン自身は一般人の弁護士だけど、あの冷戦下にソ連のスパイは殺せと感情的にヒステリックになる一般市民、一部警官や会社の同僚ですら彼の行動を非難する中、あくまでもアベルに対して対等に接する弁護士のプライドと、非公式な政府の代理人としてソ連と交渉する粘り強さが見どころ。
いつの時代にもどこの国にも敵国のスパイは殺せと感情的になる人たちはいるし、そういう人たちとの対比としてもあくまでも論理的に弁護士の仕事をするドノヴァンのキャラクターは際立って清々しい印象だった。
冷戦下のスパイ絡みの話だけに、スパイや政府の腹芸や探りあい、非情な状況の緊張感でストーリーに引き込まれる感じ。でもそのドノヴァンはじめ他のキャラクターたちも何気に人間味があって、全体にはハードになり過ぎないところがバランス良かったというか。
あの交渉時のCIAのお付きの人たちはなにげにおかしかった。自分らはヒルトン、ドノヴァンには寒いボロホテルをあてがっておいて、コートを取られたドノヴァンが風邪を引いてもお構いなしだったのに、電話待ちの間に結局風邪をひくとかwww 東ベルリンの若い秘書も良かったし、アベルの偽家族の態度もなげやり過ぎておかしかった(笑)
ドノヴァンのコーヒースタイルや家族の名前は知ってて当然て感じでプレッシャーを掛けるCIAや、ソ連大使館に交渉に行くのにチンピラに襲われコートを取られ無事にたどり着けるのかとハラハラしてたら当然監視されてたとか(助けてやれよ!)、政府とか諜報部のやつらは気が抜けなくて怖いな!w

トム・ハンクスは当然上手いんだけど、アベル役のマーク・ライランスがとても良かった。あの静かだけど意思を感じさせる佇まいや、無駄を嫌い達観してる感じがとてもよかった。あのキャラの積み重ねと二人のやり取りがあるから最後の橋での別れがなんとも言えない切ない気分になるんだよなー。
非公式だから命の保証もない大変な仕事をやってのけて戻ってきたところでニュースで家族バレするのはとても良かった(笑)(何気にジャムのこともw)
列車から見た壁での狙撃のことを最後に思い起こさせるとこや、新聞報道を見た一般市民のドノヴァンへの見る目のこととか、ちゃんと一般市民に非国民扱いされた彼の名誉回復もされててひと安心だよw
そしてドノヴァンはその後まさかあんなにもすごい仕事をすると知ってびっくり。優秀な弁護士は凄腕のネゴシエーターなのですね。あと捕まってた大学生もちゃんと名を残してたし。CIAは馬鹿者呼ばわりしてたけどあえて冷戦下に共産圏に行くような学生はやっぱり優秀ってことじゃね?w
それと演出的に超絶上手いから全然テンポ悪くはないんだけど、スピルバーグっていつからあんなにカット多く割るようになったんだっけ?前からだっけ?日常動作の細かなカットの積み重ねが多い印象だった。その辺の丁寧さはちょっと気になったんだけど、見終わってみると意外と映画自体の厚みになってるのかなあ。
とにかく大変よい映画で面白かったです。