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ちかえもん#8「曽根崎心中万吉心中(そねざきしんじゅうとまんきちのおもい)」(終)

http://www.nhk.or.jp/jidaigeki/chikaemon/
脚本:藤本有紀 演出:梶原登城
 
ああー終わっちゃったー… (´△`) 楽しかったなあこの2ヶ月8話。こういう時代劇もあってもいいと思うわ。うん。
何もかもがすごい大団円だったけど、最後までどこからどこまでが真実なのか創作(妄想)なのかよくわからない、虚実ない交ぜのドラマだった。
でも近松がこれは木曜8時の痛快娯楽時代劇だと言ってるからには本当に二人が心中してしまうなんてことあるわけ無いと思ってたから、最初の徳兵衛とお初の心中死体からして万吉のでっち上げ、葬式とか考えたら平野屋や天満屋もグルだろう、知らぬは近松ばかり…と思ってたんでそこはいい。むしろそのやりきれなさをキッカケに近松がモーレツに人形浄瑠璃を書き始めたのは作家の業とでも言うか、まあよかったなと。
万吉の言うように「うそとほんまの境目が一番おもろい」わけで、心中という事実を元にしたと言いながらもそこに別の真実があるのならそれは虚実ないまぜのお話であって、何が本当で何が嘘かはわからないよねえ。そこで近松wikiを見ると「虚実皮膜論」というのが近松の芸術論だと。
「うそとほんま」の対比、ちょっと面白いなあと思ったのは、お初徳兵衛の偽物の死体を見て死んだと思って近松が書いた人形浄瑠璃を見て、それが本当にあった出来事のように涙を流す観客を見ると(心中事件は本当にあったけど物語自体は虚構だし)、本物の人間も人形芝居も大して変わらないのかなぁと。
まあそれもまるで生きてるかのような人形浄瑠璃の操演あってこそというか、生きてる人間じゃなくてもそこに気持ちを投影して感情を揺さぶることが出来るのが物語という虚構の力なのかと。
そこで万吉の正体はというと、近松が子供の頃に遊んでいた人形だったという、これが一番衝撃の事実だったんだけど。
人形浄瑠璃を題材にした話だからこそ、人形にも命が宿る(人の心を揺さぶり行動を促す)という大ネタが生きるわけで、それを万吉が体現してるというか、妄想かもしれない万吉の存在や言動によって近松曽根崎心中を書いたかもしれないと気がつく物語はとても虚実ないまぜ。今まさにこのためにいたって言われて一瞬まさかタイムスクープハンターか?って思ったのは内緒だw
しかし曽根崎心中の上演日時とかはやたら史実に沿ってて、いかにもリアルな歴史劇であるかの様に見せかけてはいるけど、万吉が一番ファンタジーだったというのはすごいよ。まあ最初からそういう浮いた存在ではあったけど人形だったってw 妖精さんか?w
あのピュアさ、素直さ、それでいて核心を突くことをいい、何もかも見通したような目をすることもある(けど基本はバカ)万吉が人形だったというのはものすごい「虚」だよな。なんか正体知ってちょっと泣けた。だから万吉は近松がいつかスゴい「にんじょうぎょうるり」作家になるって信じていられたし、近松の創作はそれに支えられたと言っても過言ではないよな。
そして万吉がファンタジーな存在なら黒田屋九平次もちょっとばかりファンタジーな気がするんだよな。完全なる悪役というファンタジーな存在。
どこから来たのかわからない切れ者の商人が、自分が物語に登場したいからといって作家のパトロンに名乗りでて、曽根崎心中に登場できて嬉しがったり、それもまた虚実ないまぜかと。物語の登場人物になりたいというのは実在の存在としてとても曖昧になる気もするし、そもそも近松赤穂浪士の生き残りかもなどという妄想のキャラ付けをしてたしな。ここに悪役がいたら話が回るやん…という近松のご都合が形になった妄想キャラかと。
でも万吉にしても九平次にしても他の登場人物に実体として影響を与えてるから、すなわちこの物語自体がちかえもんの描いた妄想だ…というのは成り立つかと。
どちらにしてもこの最終回、近松門左衛門曽根崎心中という人形浄瑠璃を書いてそれが上演されたという歴史的事実と近松の身内の人間関係以外は、万吉を始め九平次も、近松がお初や徳兵衛と関わったことなどもしかしたらすべてちかえもんの脳内の妄想かも知れないし…と思わせるような舞台的なインナーワールド演出だったし、そもそもすべてが最初から近松の一人称語りなので、ほとんどが脳内妄想であっても別に不思議ではないとは思う。
そして死ななかったお初と徳兵衛は越前に。つまり越前が万吉の言うあの世だったのだ。サバじゃねぇしw
でもあの時代、よくわからないけど都会から田舎へ逃げていくってのは一度死んだつもりでくらいの覚悟がないと生きていけなかったんじゃないかと思ったりもするんで、あながち「あの世」っていうのも間違ってはないような気はするよ。
そして万吉も今もどこかで不孝糖を売ってるんだよね… (´Д⊂ヽ で、最後は「我が良き友よ」かよ(笑)
万吉の人形があるかぎり、いやなくても近松の脳内に万吉は生きてるわけだし、それもまた虚実一緒くた、ほんまの真実を嘘で面白い作品につくり上げるのは戯作者の生き様でもあるのかと。史実的にはこのあとの心中ブームで何人もの若いカップルが命を落とし、近松の作品も禁止になるほどの影響力だというから、そうまでしても何かを書きたい、他人の心を揺さぶる物語を描きたいという作家の業とは実は本当に恐ろしいものであるよなあ。
とにかくスゴいお話だった。人形浄瑠璃もたっぷり見られたし、北村有起哉義太夫の語りもすごかった。舞台出身にしてもあれはすごい。
最後のアニメーションも味があってよかったし笑ったw*1
ホンマにこのドラマは名作、めったにない傑作や…てな陳腐な言いまわしは、わしのプライドが許さんのである!(お約束)
ところでこのドラマは「近松門左衛門」を「ちかえもん」と言ってしまうセンスもスゴいけど、近松の本名が「杉森信盛」ってのもなんか一人コンビ名みたいでちょっとおかしいなw
文楽といえば橋下大阪市長補助金見直しでもめてたのは記憶にあたらしいけれど、このドラマで少しは追い風になればいいですねえ。(てきとーな締め)

*1:木曜時代劇「ちかえもん」 劇中アニメーションの作者・岡江真一郎さんにお話をうかがいました! 好評放送中の木曜時代劇「ちかえもん」。 本日は第1回から毎回劇中に登場し、ドラマ... http://www.nhk.or.jp/osaka-blog/program/237452.html