そこがミソ。-ドラマや特撮感想などを気ままに

ブログ、感想は見た日の分にアップしたいので過去ログがいきなり埋まってることもあるってよ。

わたしを離さないで#10(終)

http://www.tbs.co.jp/never-let-me-go/
脚本:森下佳子 演出:吉田健 原作:カズオ・イシグロ
 
話自体は泣けたし、この物語の意味はちゃんとわかってる…んだけど、でもやっぱり最後まで「提供者」という存在がいる世界ってのが自分の中で折り合いがつかなかったなあ。
システムとしてすごく不思議なんだよ。校長の話だと提供を受けないという選択をする人も出てきたて言うけど、延命で使ってる人もいるってこと?まるごと取っ替え的な?
龍子先生の話だと提供だと知らない人もいるし、社会が認めたシステムなのでありがたく提供を受ける人もいる。そしてそれについて触れたくない人と感謝してもっと知りたいという人もいる…って話だけど、倫理的には感謝してるし知りたいというあのサッカーやってる子の父親みたいな人はちょっとどうかと思う。つーか臓器提供ですら提供側は秘密にされてるのに提供者にはそれすらもないってことか。しかも提供者の名前を子供につけるってすごく怖いよ。感謝の気持ちはわかるけどそこじゃねえ的な。
少なくとも社会で認められたシステムだから提供者という人間の人格や生存権は考えずに利用するって、すごく思考停止の衆愚の人たちだと思う。
だからそういう人たちの役に立てたことを誇りに思って死んでいく、ということを推奨してる話はとても気持ちが悪いです。誰でもそのシステムを使えるってそういうことだよね。
少なくとも語りたくないって人はそれについての罪悪感があるんだろうけど、知らないで使ってる人もシステム自体は知ってるはずだからそれ以前の話、自分らが食べる肉がどこから来たのか、切り身が泳いでるんだろうレベルにしか考えてない人たちだよね。階層社会が描かれてないだけでやっぱりディストピアだよ。1級市民と家畜市民がいるんだよ、見た目は同じだけど。
だったらやっぱり肉体を提供して死ぬのが当たり前の提供者にわざわざ教育を与えて夢を見させるのはいいのか悪いのかと言われたら、もう臓器なら臓器として扱ってあげて…としか。夢とか見させないでよ残酷すぎる(;´Д`)

それでもまあこの話が何をいいたいかというと、死ぬということ自体は提供者だろうがそうでなかろうが変わりがないけど、生きてるということにどういう意味をもたせるのか、人が生きたということはどういうことなのかを考える哲学としての問いかけってことだよね。まあ社会システムのほうが理屈じゃ通らないからそういう話かなあとは思ってたけど。
絶望的な死がそこに見えてても夢や希望があれば人は生きることを諦めないし、美しく楽しい思い出があれば死んでいけるし生きてもいけるってことかなあ。
このシステムも一度に全提供ってならないのは非効率的だと思うんだけど、このドラマ見てると少しずつ臓器を持っていかれるってのをなんだかやけにリアルに感じてしまうのよ。そこにあった肉体が無くなること=死であって、恭子がためてる宝箱の思い出の品の数々がそのまま提供者たちの数に見えて心がつらい…とか思っててたら宝箱の目的自体そうだったわけだし。残ってるのは「物」だけど、一緒にいた記憶や思い出こそが宝物なのよね。(オレこういう死んだ人の思い出の品が残ってるって話に弱いんだ)
あの宝箱がいっぱいになってそれでもまだ一人で生きていかなければならない恭子の気持ちを考えるとなあ。彼女はよく心が壊れないよな。それとも介護人仲間では黒の死神とか言われてるんだろうか。(最初の方黒ばっかり着てたから)
ああそういや過去の回想の時に波が打ち寄せてくるのって、恭子がこの最後に海に入っていく時の走馬灯のようにも思えるんだけど。記憶ものぞみが崎に戻ってくるって感じかしら。
結局は死のうと思って海に入った恭子も、1年掛かって戻ってきた友彦のサッカーボールに押し戻されるようにこちらに戻ってきたけど、でも生き残ってもつらいことばかりってのもあるよな。それは校長も同じかなあ。でも少なくともまだ生きられるのに死ぬこたないと思うな。どんなに辛くても。それ自体が生きられなかった他の提供者の分まで生きろってことで楽な人生だとは思えないけど、それでも生きてれば生きててよかったと思うこともあるんだろうし、そう思って死ねるほうが少しは幸せってことかなあ。生きた意味があるって感じる分だけ。ああそれも悲しいなあ。オレも死ぬ時は、ああ生きてて良かった、と思って死にたいね。
メインの綾瀬はるか水川あさみ三浦春馬だけ見ててもこの俳優さんたちじゃないとここまでのドラマにはならなかったと思うので、あえてこういう話にチャレンジしたのはすごいと思う。特にやっぱり春馬はスゲえよ。こまかすぎて伝わらない役作りすぎる。でも次というかそろそろもっとのびのびした役とかワイルドで野性的な役が見たいよ?
気になったんでチラっとネットの感想を見てたら、提供者の赤い書類を戦時中の赤紙と見る意見があって「あっ」と思った。ちゃんとした国民ではあるけど国家の意向で否応なく戦争に送られる(=死ぬ)というのはまさにこの提供者の境遇と同じだと。これが原作からの改変部分かどうか分かんないけど、そうだとすればこのドラマ班はいつもながらほんと凄いよ。
ドラマはとても面白かったです。チャレンジ精神大事。